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惣領冬実『チェーザレ』(監修:原基晶)

http://www.amazon.co.jp/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%AC-3%E2%80%95%E7%A0%B4%E5%A3%8A%E3%81%AE%E5%89%B5%E9%80%A0%E8%80%85-3-%E6%83%A3%E9%A0%98-%E5%86%AC%E5%AE%9F/dp/4063722872/ref=pd_bbs_sr_1/249-1351945-1641904?ie=UTF8&s=books&qid=1181641678&sr=8-1

3巻では派手な事件も起き、大物が正体をあらわにし、さらに面白くなってきた。帯では佐々木毅がアオってる。各巻末に解説が付いていて嬉しい。

惣領さんの創作の苦労話が読めるWork's Informationもとてもおもしろい。時代考証って大変だ。敬称とか、小物とか。
これは本にならないのかな。監修の原先生の思いはわかるけど読み手にわかりやすいように配慮もしたい惣領さん、学術的に時代考証を正確にしたい原さん、売れてくれるために娯楽性をいれたい編集さんの静かなバトル裏話、みたいな。
いや、いっそのことしっかりした漫画チェーザレ注釈本を原先生がつくってくれてもいい。ハードカバーで5000円とか完全に学術書並でも買う。大学の「歴史入門」とかの教養科目の教材としても使えるよきっと。何がいつどこであった、という「歴史」の記述は一体どうやってできあがってきたのか、とか、そうやって(ほぼ)確定した事実をどうやって解釈してどういう意義を与えていくのかとか、学べそうだ。(扇動されやすい人2 - 我が九条扇動されやすい人2 - 我が九条を読んで思いついた。)

今現在、手元にある資料というのがチェーザレ・ボルジア個人の記録について、4センチはあろうかという厚さのイタリアの原書なのですが、これが曲者で昨今の随筆と違い、かなりの年代物なため文章その物が散文のようなメモの形式を取っており、チェーザレの誕生日に関しても、当時の家族間の手紙のやり取り、及び両親の住まいの記録、関係者の証言等が約4ページにもわたって綴られ5ページ目にようやく「故にチェーザレの生誕は1475年9月13日か14日で、リニャーノもしくはローマで生まれたと推測される」と結ばれているような次第で、「たのむ・・・1ページ目で結論言ってくれ・・・」と泣きが入る有様です。
全てがイタリア語、また文書の引用はラテン語だったりするので、解読してくださっているH先生、その門下生の学生さん達の苦労を考えるとさらに涙物なのですが、この書物が見つかっただけでも奇跡とも言えるので、それは本当に感謝しています。(2006年6月22日分より)

Work's Information

歴史上の人物の生没年月日が教科書などにさらりと書かれている裏にはこんな苦労が。


3巻感想。一読目はただ面白く読んだけれど、再読してみると見せ場が少々派手すぎるという感じもした。アンリ屈辱すぎかわいそう。娯楽性を意識した?謎めいた神学部生(と正体をぼかしてみる)の「派手なかただ」「大衆の心をつかむ術を知っておられる」「でも確固たる敵をつくってしまう」とのコメントで、派手すぎることは一応客観視されていて、話の筋やチェーザレのキャラクター立てとして必要なのだという意義もあるのはわかるが。もっと淡々としていても地味でも買う。どんなに刊行ペースがゆっくりでも。

メモ
原さんの文章。http://wwwsoc.nii.ac.jp/mediterr/geppo/227.html 下のほう。人文系の研究者の多くが経験する、陰鬱で貧窮した時期。恩師ジョルジュ・パドアンの思い出。


この日記は、惣領さんのサイトにあった「きちんとした時代考証に基づいてつくりたいが、売れてくれないと続かない」という制作側の事情を見て、今くらいかもうちょっとお固い路線でも私は買いますと表明しておけば、ほんの少しでも惣領さんが納得のいく出来の「チェーザレ」が続く可能性があがるかもしれないと思って書きました。そんな心配をしなくても、実際は売れ行き好調のようで嬉しい。